大腸菌不活化ワクチンの接種がウシ乳腺の免疫機能に及ぼす影響に関する研究

摘要

ウシの乳房炎は乳腺に起きる炎症で,主に微生物（細菌,マイコプラズマ,真菌等）が乳房内に侵入，増殖して発症する。乳房炎を発症すると乳質および乳量の低下を招き，症状が著しい場合は出荷停止となる。また，治療のために薬剤を投与されれば,定められた期間生乳は出荷停止となる。そのため乳房炎は酪農における重大な生産阻害要因となっている。乳房炎の中でも，急性大腸菌性乳房炎（acute coliform mastitis; ACM)は大腸菌等のグラム陰性桿菌が原因となり発症するが，重篤な全身症状を示して死亡したり,泌乳量が激減して廃用に至る例が少なくない。海外で利用されている乳房炎予防用の大腸菌ワクチンは日本では認可されていないが，下痢予防用の大腸菌不活化ワクチン（enterotoxigenic Escherichia coli vaccine; ETECワクチン）は市販されており,妊娠母牛に接種され初乳を介して抗体を子牛に付与することで子牛の大腸菌性下痢症を防ぐ目的で使われる。本研究では，乳牛のACM予防のためのETECワクチンの応用を目指し，ETECワクチンの接種が乳腺の免疫機能に及ぼす影響を調べることを目的とした。