燃料電池自動車開発ならびに水素供給インフラ形成の技術紹介と展望

摘要

以上，トヨタ自動車の燃料電池自動車の技術開発および水素インフラ拡大のための各種課題について解説いただいた.あらゆる技術開発において，市場化するまでの間に「死の谷」が横たわっているといわれる.普及するためには価格が安くなる必要があり，価格が安くなるためには相当数の需要•販売が必要となる.これを後押しする力は，まさに政策であろうと思う.水素をベースとした社会作りが将来的に必要と考えるならば，政府が率先してそれを後押ししなければならない.私の研究の一つとして，将来の最適社会エネルギーシステム解析を行っているが，常に物をいうのは「価格」である.しかし，価格の元を追求していくと，雇用コストにたどり着く.したがって，コスト低減競争は雇用削減(人減らし)競争をしているに他ならないことに気づく.これまでの社会は生産性が低かったので，市場競争がそれほど熾烈ではなかったのに対して，これからの社会では少人数で大量の生産を行うことができ，ますます人減らし競争が激しくなることは明らかである.したがって，雇用が豊かな未来社会を築くには，短視眼的にはコスト高であっても，多くの人が生産に携わり，生産と消費を通してお金が地域で循環する社会形成を目指さなければならない.わが国はエネルギー資源をもたないために，エネルギー代金の大半が海外に単に流出している状態にある.これを，豊富にある再生可能エネルギーを主体としてエネルギー生産を行い，電気や水素の形態でそれらを利用していくならば，これまでよりも割高なエネルギー代を支払うことになったとしても，その多くが国民の中で循環し，経済的に大いに活性化した社会を形成できるものと思う.水素を中心としたエネルギー社会形成はまさにそうしたポテンシャルをもっている.政府は時代の変化と域内経済循環の意義を認識し，水素インフラ形成における「死の谷」を超えるためのさまざまな政策を行うベきである.読者には単なる将来自動車という視点に加えて，持続可能な雇用の確保とお金が域内で循環する新しい仕組みの点からも，燃料電池自動車および水素社会を考えていただければ幸いである.%Expectation for the future hydrogen society is highly promoted by the sales start of "MIRAI" , fuel cell cars commercialized by Toyota Motor Corporation one year ago. The article introduces technologies developed for the fuel cell vehicles. It also explains the present state and necessary zeal for establishing infrastructures of hydrogen production and delivery service. Despite of the technological development there is a high hurdle to get customer satisfaction. The article emphasizes the importance of the strong leadership by the government to overcome the "business death-valley", which is generally lying before commercialization.