高齢者乗員の前面衝突時胸部傷害低減の方向性

摘要

近年，高齢者の運転ミスによる交通事故が社会的注目を集めており，加齢による認知•判断能力の衰えを補うための運転支援技術の開発や運転免許制度の改定といった，高齢ドライバが加害者となる事故を未然に防止するための対策が急ピッチで進められている.一方，日本の交通事故統計によると，日本における交通事故全死者数に占める65歳以上の高齢者死者数の割合は年々上昇しており，日本での交通事故死者低減における高齢者事故対策は喫緊の課題のーつである.なかでも，交通事故総合分析センター(ITARDA)の集計データを用いて筆者らが整理した結果によると，乗用車および軽自動車乗車中の事故において，シートベルトを着用した運転者に限った年代別の死者，重傷者別の受傷部位を64歳以下と65歳以上で比較してみると，受傷部位別にみた胸部傷害による死亡の割合は，成人の場合22%なのに対し，高齢乗員の場合は57%となり，胸部傷害による死亡割合は，他の部位に比べて顕著に高い.