『箱の産業: プレハブ住宅技術者たちの証言』

摘要

本書は、わが国におけるプレハブ住宅の誕生•発展の過程を、その摇籃期の開発に携わった技術者たちの対談形式による証言と、それを補完するかたちでの編著者の論考によりまとめられたものである。プレハブ住宅メーカーの技術および産業としての成立過程を、技術者たちのインタビュー証言を通じて記録するというスタイルはユニークである。プレハブ住宅の構工法開発や生産現場の最前線で活躍された技術者たちの生き生きとした証言により、開発当時の社会的背景や具体的な商品開発過程、さらにはその舞台裏までもがよく理解でき、同時に技術者たちの熱い思いが伝わってくる内容となっている。戦後復興を遂げた高度経済成長期において、良質で合理的な箱としての住空間の供給を目ざして発展してきたプレハブ住宅産業は、日本の住宅産業全体の生産性向上にも寄与してきたが、本書は昭和の建築産業発展過程における住宅関連技術開発の歴史も知ることができる貴重な史料となっている。代表的なプレハブメーカー8社による、鉄骨系•木質系などの各種構造方式の技術の特徴やそれを踏まえた技術開発のノウハウが理解でき、建築生産に関する歴史的な記録としても価値のあるものである。証言の間に挿入されている本書の編著者による多面的で明快な分析に基づく論考の内容も興味深く、これにより技術やその背景の理解がより深まり、全体的な流れをわかりやすくしている。また多くの詳細な情報を脚注として配置するとともに、年表や技術資料も巻末に収録されており、読みやすくかつ正確な内容がわかる体裁•構成になっている。