空蝉の人物造型--人妻の倫理意識をめぐって-

摘要

『源氏物語』において、空蝉は光源氏の執拗な求愛を厳しく拒絶し、彼を深く嘆かせた特異な女性として語られる。その人物造型について、従来、人妻の倫理意識から論じられて、彼女を貞節な女性として捉えることが多かったのであるが[1]、近年は、上の品から中の品に成り下がったという、運命の変転を経験した故の身分意識から論じられることが体勢を占め、従来の「貞女」説は軽視されるようになった。しかしながら、空蝉に「貞節」といった儒教的な倫理観が強く持っていることを重視して理解しなければ、その言動を正しく捉えることができないと思われる。本稿は、作者の創作意図を探りながら、空蝉の内面に入り、光源氏を拒み続けた意識の中に、夫に対しての貞節という人妻の倫理意識があったことについて再検討したものである。