高臨場感オーディオと聴覚的臨場感

摘要

高臨場感オーディオにおける品質には，オリジナルの音源に対して，帯域?時間分解?階調も含めて周波数成分がいかに忠実に再現できるかという音質的な課題と，定位や音場やアンビエンスといった空間的?時間的な特徴がどこまで再現できるかという課題があるだろう。もちろh，技術的に可能であることと，それを実際に人が聴いて違いが分かり，なおかつ，それによるいっそうの心地よさや深い理解や共感，感動といったものが得られるかということは，また違う。ここでは，聴覚的臨場感という観点から，高臨場感オーディオについて音楽音響的に考えてみたい。臨場感の辞書的な定義は「その場にいる感じ」である。すなわち，実際にはここには存在していない空間や対象がここにある，あるいは，そこにいないはずの自分がその空間に存在して対象に向き合っているという，仮想的あるいは擬似的な感覚体験である。しかし日常的には，実際にある場面や対象に臨hでいる場合や，まさにその体験をしている場合にも使用される。また，存在に関わるpresence，モノの確からしさに関わるreality，人の活動的な関わりを重視するactuality などが混在した概念でもある[1]。