2次元スカラー波動場におけるトポロジー導関数を用いた複数クラック決定解析

摘要

材料を破壊せずに内部の散乱体の位置や大きさ，形状などを調べることは材料の強度の信頼性を保つ上で重要である．材料に超音波を入射し，内部の散乱体からの散乱波を材料表面で計測することで散乱体の情報を得る手法は超音波計測と呼ばれ，多くの分野で利用されている．近年，設計自由度が高いとされているトポロジー導関数を用いる最適化手法を超音波非破壊評価に応用する手法が注目されている．トポロジー導関数を用いた非破壊評価の手順は次のとおりである．はじめに，設定した複数個の散乱体による散乱波動場と材料表面での計測値との差からなる目的汎関数を導入する．つぎに，対象領域の微小なトポロジーの変化に対する目的汎関数の変化率で定義されるトポロジー導関数を時間域の境界積分方程式法［1］により求める．得られたトポロジー導関数を用いて，発生や消滅も含めた散乱体の位置や形状の更新を行う．この操作を繰り返すことで，目的汎関数を最小とする散乱体の個数，位置，形状を同時に求める．BellisやBonnetは，3次元動弾性方程式と波動方程式におけるトポロジー導関数の定式化を行い，その妥当性を検証している［2］［3］．また吉川，寺沢はこれを用いて3次元散乱波動場における散乱体の決定解析を行っている［4］．本論文では機械部材や土木部材の超音波非破壊評価を意識し，部材の強度低下につながるクラックの決定解析を考える．具体的には，トポロジー導関数を用いて2次元散乱波動場における数が不明な複数本のクラックの本数，向き，長さの決定解析を行う．