超短パルスレーザによる微細深穴加工に関する研究

摘要

レーザのパルス幅が従来のレーザに比べて非常に短く，パルス幅がピコ秒オーダ以下のレーザは，超短パルスレーザと呼ばれている．これらのレーザはパルスエネルギー強度が非常に強く，レーザ照射部が瞬間的に蒸散し熱影響が小さいため，従来のレーザでは実現できないバリや加工穴周辺の盛り上がりのない精密な加工が実現できる．従来のレーザ加工のプロセスは，レーザ照射により材料を溶融させ，高圧のアシストガス噴射により溶融部を除去するものであるため，貫通穴は加工できるがザグリのような加工を行うことは困難である．一方，超短パルスレーザは熱影響が小さくレーザを照射した局所領域のみがアブレーションにより除去されるため，照射パルス数を制御することで，加工穴深さ方向の制御も可能となり得る．しかし、超短パルスレーザは上記のような特徴を持つ一方でフォトンコストが高いため，付加価値の高い加工に適応することが望ましく，その対象分野としては高アスペクト比の微細深穴加工が挙げられる．当該加工は自動車や半導体等の幅広い産業分野に利用されており，例えば自動車の燃料噴射ノズルは燃費向上のために燃料を微細かつ一様に噴霧することが求められており，より微細で高精度な加工技術が必要とされている．このような技術要求は繊維糸生成のための化繊ノズルにも当てはまり，幅広い分野において機能向上に係る基盤加工技術といえる．このような微細深穴加工を行う手段としては，ドリル，放電加工，レーザ加工が挙げられるが，穴径が小さくなるほど微小径かつ深穴を両立することは困難となる．本研究では，超短パルスレーザの特徴を生かし，従来の機械加工技術では実現が困難である難加工材料に対する高アスペクト比の穴加工基盤技術の確立を目的とする．超短パルスレーザを用いた代表的な穴あけ手法として，レーザ光を固定した状態で同一箇所に繰返しレーザパルスを照射するパーカッション，レーザ光を円周状に走査した状態でレーザパルスを照射するトレパニングがある．パーカッションは深穴加工に適しているが，超短パルスレーザでは照射部中心のエネルギー密度が非常に高くなることから中心部のアブレーションレートが周辺部と比較して高くなることで，加工形状が三角錐状の所謂テーパ形状となる．一方，トレパニングでは，ストレートの穴断面形状が実現できるが，レーザ光を円周状に走査するため，加工穴径はビーム径よりも大きくなる．ASHKENASI らはウェッジ基板を用いたトレパニング装置を提案しており，アスペクト比10 のストレート穴加工を行っているが，加工穴径は最小で100μm となっている．このため，本研究では加工穴径が50μm 以下で，アスペクト比10 のストレート穴加工を行うためのトレパニング装置の開発を行なったので，その加工結果について報告する．