多層構造静電アクチュエータの摩擦特性切換え機能と超精密位置決め

摘要

導体間に絶縁層を設けた単純な構成からなる静電アクチュエータは，原理的に動力伝達が非接触なため多自由度化が容易，低発熱といった利点をもつ．MEMS では弾性ヒンジとの組み合わせが一般的であるが，ヒンジの制約をとれば，サブミリオーダ以上の動作範囲も実現できる．発生力が比較的小さい欠点は，電極を含む層の多層化により解消される．しかし，層間の潤滑特性がアクチュエータ特性に大きな影響を与えるため，潤滑特性が良好であることが不可欠となる．従来の研究では，層間に転がり要素を挿入していたが，メンテナンスの労力増大や構造の複雑化を招いてしまう．そこで著者らは，潤滑油のみで層間を支持し，適した駆動信号と組み合わせることで，広い範囲で超精密位置決めを実現する方法を明らかにした．位置決めシステムには用途に応じて様々な特性が求められるが，光学機器等のように，間欠位置決めで目標位置で高い剛性が必要になる場合もある．そのような場合，ステージのロック機構が付加されるが，構造が複雑になってしまう．ところで.潤滑油のみを層間支持に利用した場合，摩擦特性は駆動信号の影響を大きく受ける．よってこの性質を利用すれば，低摩擦特性下で広い動作範囲と高応答性，高摩擦特性下で大きな保持力と精密動作の両立，という2 種類の特性を付加機構なしで切換え可能となる．本論文では，これらの特性を実現する方法を明らかにし，その方法を用いた超精密位置決め結果について報告する．