国内のある私設鉄道博物館の現状と将来課題

摘要

本稿は日本国内に現存するある私設鉄道の博物館について，現状と将来に向けた課題を述べたものである。ここで取り上げる博物館は岡山県西部にある「井笠鉄道記念館」（以下、同館）であり，長くこの地方で鉄道事業とバス事業を，さらに鉄道事業廃止後はバス事業と観光事業を経営基盤とする井笠鉄道（以下、同社または同鉄道）が管理·運営する博物館相当施設（専任学芸員がいないためこのように記すが、実際は地域的な鉄道博物館の機能を持つ）である．同社は2011 年7 月に創立100 周年を迎えたが，創立70 周年（1981 年）の記念事業として旧駅建物を利活用した記念館を新設しここに鉄道車両や関連する数多くの産業遺産を保存·展示した．爾来30 年が経過するが，社会貢献に向けた同社の志と記念館を預かる館長の献身的な努力により，保存·展示される多数の産業遺産は定期的に整備され，これらの学術面での価値も高く評価されている．以下、同館の概要，産業遺産の利活用，そして将来に向けた課題の順に記す．