ガラス状高分子の一軸伸長シミュレーションにおけるからみ合いの影響

摘要

高分子鎖のからみ合いがガラス転移温度Tg 以上の高分子溶融体のレオロジーにとって非常に重要であることはよく知られている。またTg 以下のガラス状態の非晶性高分子においても、大変形下での力学物性と高分子鎖のからみ合い密度との関わりが示唆されてきた。例えば、Kramerは高分子材料の脆性破壊時に生成するマイクロクレーズの成長にからみ合いが関与するモデルを提案し、Wuはからみ合い密度と相関性のある特性比がその材料の破壊挙動との関係から経験的な式を提案している。LikhtmanらはKremer-Grestタイプの粗視化分子動力学シミュレーションに結合角ポテンシャルを加えて剛直性を変化させてPrimitive Path Analysis (PPA)を行い、溶融状態における鎖の剛直性の指標となる特性比とからみ合い点間分子量との間の関係が、Fettersらの提案した式とほぼ一致することを見い出した。同様の手法を用いHoyとRobbinsはガラス状態の高分子の一軸圧縮下での応力ひずみ曲線を調べ、非線形応力がneo-Hookeanモデルで記述でき、その比例係数がからみ合い点間重合度N_eに反比例することを見いだしている。本稿では、さまざまなからみ合い点間分子量を持つガラス転移温度以下での非晶性高分子の一軸伸長に対して同様の計算を行うとともに、高張力下で分子鎖切断の効果を取り入れた結果について報告する。