Ti-50.4atNi 形状記憶合金の形状記憶·機械的特性に及ぼす拡張熱処理中の与ひずみの影響

摘要

Ti-Ni 系形状記憶合金(SMA)は形状記憶特性および超弾性特性を示す機能性材料としてだけでなく，良好な機械的特性を示す材料として広く知られている．SMA はカテーテル治療などの医療分野におけるステント素子として実用化されており，これまでにSMA を利用したステントについてさまざまな研究がなされている．ステントに要求される特性として，大きく広がった試料を小さくたたむ際の柔軟性(マルテンサイト変態誘起応力)，カテーテル収納時の大変形から血管内に展開される際の変形回復能，そして展開した後脈動する血管内での留置性(繰り返し変形時のマルテンサイト誘起応力および回復応力の安定性)がある．これら特性は，加工率や熱処理によって変化することがこれまでの研究で明らかにされている．レーザーカット法によるSMA ステントの作製工程には， Ti-Ni パイプにレーザーカットを施した後シースを挿入した状態で熱処理を施すという拡張熱処理が存在する．この拡張熱処理がSMA のマルテンサイト変態誘起応力，変形回復能および回復応力に及ぼす影響に関しての報告は少ない．そこで我々研究グループは、Ti-Ni 形状記憶合金の形状記憶·機械的特性に及ぼす段階拡張熱処理の影響について調べてきた．これまでの研究で，試料全体がマルテンサイト変態しない領域のひずみを与えた状態で拡張熱処理を行った場合ネッキングが生じ，それが原因で形状記憶·機械的特性が低下することを明らかにしてきた．本報では，試料全体がマルテンサイト変態する領域以上(塑性変形領域を含む)のひずみを与えて拡張熱処理を行った場合，付与ひずみがステント用形状記憶合金の形状記憶·機械的特性に及ぼす影響を調べることを目的とした．