CFRP 切削工具のセルフシャープニング－その2 工具刃先摩耗の繊維配向依存性を利用した新しい切削手法の提案

摘要

近年, 炭素繊維強化樹脂(CFRP)は, その優れた機械的性質から, 適用範囲を大きく拡大しており, それにともない加工技術の向上が求められている．CFRP の切削加工において, 刃先の鋭利さ（刃立ち性）は工具の加工性能を決定する重要な因子である．通常, 切削工具に高い強度を有する材料を選択することや, 表面に硬質被膜を付与することにより, 刃先の鋭利さを長期にわたり維持することを目指す．一方, CFRP 切削では, 炭素繊維の高い硬度に起因する工具損傷が生じるため, 上述したコンセプトに基づく工具の長寿命化は容易ではない．本研究グループでは, 新たなコンセプトとしてCFRP 切削において現れる工具逃げ面の顕著なアブレシブ摩耗に着目したCFRP 切削工具の長寿命化手法を検討している．被削材の除去と刃先の研磨を同時に実現すること（刃先のセルフシャープニング）で, 刃立ち性の長期的な維持を目指す．これまでの研究結果から, CFRP 切削において工具摩耗は繊維配向に強く依存することが明らかとなった．また, 工具の摩耗プロセスはチッピングや塑性変形による脆性破壊と炭素繊維との接触によるアブレシブ摩耗の2 種類に分けられ, それぞれの発生頻度は繊維の配向方向と工具刃先の相対角度に依存することが示唆された．本稿では, 上述した知見に基づき工具摩耗の繊維配向依存性を利用した新しい切削手法を提案し, 本加工法による工具刃先の長寿命化を検討する．