硬質微粒子浸透による疲労き裂の進展遅延効果と応力比の関係

摘要

国内の社会インフラは高度経済成長期に建築されたものが多く，老朽化とともに疲労損傷が多く発見されている。点検や補修などは順次行われているものの，老朽化に追いついていないのが実状であり，社会問題となっている。こうした状況を踏まえると，工期を要する補修に加え，簡単に対処可能な疲労損傷の遅延技術が重要になってくる。疲労損傷はき裂発生過程とき裂進展過程に分けられるが，応力集中係数の比較的高い溶接構造でしかも既に疲労き裂が存在している状況を考えると，き裂進展過程における進展遅延が必要となる。高橋ら［1］は，き裂進展が予想される箇所に硬質微粒子ペーストを塗布すると，き裂面内に粒子が浸透することによってき裂閉口現象が促進され，き裂進展が遅延することを指摘している。この技術は一部実用化もされているが，ほとhど効果が認められないとする報告［2］もある。き裂面への粒子浸透には残留応力も加味した応力比（以降R比と呼ぶ）に応じた適正な粒子寸法が存在することが予想され，安定的なき裂進展遅延効果を得るためには，R比と粒子寸法の組合せに応じた疲労き裂の遅延効果を明らかにする必要がある。