現在,悪性腫瘍や疣贅に対し凍結手術が施行されており,この手術は局所部位に極低温を作用させ,その部位の生体反応を利用した手術方式である.この手術は一般外科をはじめ,皮膚科,泌尿器科などの多くの分野で利用されている.凍結手術装置は1961 年にI. S. Cooper により液体窒素を凍結源とした装置が作製され,発展してきた.現在市販されている装置は,液体窒素などを凍結源とした相変化を利用する装置や,アルゴンガスなどを使用しJoule-Thomson 効果を利用し低温を得る装置がある.凍結源に液体窒素を利用した装置は凍結能力が高く,凍結プローブ先端温度は-190°C以下が得られ,アルゴンガスのJoule-thomson 効果を利用した装置では,-145°Cを得ることが可能である.生体反応としては凍結付着,凍結固形化,凍結炎症,凍結壊死があるが,腫瘍破壊に利用されている現象は凍結壊死である.凍結壊死の発生機序としては,凍結による氷晶の発生·発育,細胞内外の脱水,蛋白質の変性,微小循環系障害,凍結後の免疫誘導などがあげられる[4] .また,悪性腫瘍に対する治療のひとつとして,温熱療法もあげられる.温熱療法は腫瘍組織を加温することにより破壊する方法である.腫瘍組織の血管系は正常細胞とは異なり薄い内皮細胞のみであり,不規則に屈曲するために血流が遅くなり,熱拡散減少により周辺正常組織より高温となる.また,温熱により血管系障害を併発することなどにより壊死すると言われている.しかし,凍結手術や温熱療法においても問題があり,凍結手術では凍結-融解速度により細胞の生存率が変化すると報告されているが,いくつかの報告[8-10] では凍結は急速であるが,融解は受動的に行われている.温熱療法では,腫瘍組織にHeat Shock Protein (HSP)が発現し,それにより細胞修復や温熱耐性を獲得するといった問題があげられる.さらに,凍結手術後に温熱療法を施行した臨床報告は少なく,その影響は明らかではないと考えられる.凍結手術により微小循環系障害が発生するといわれているため,組織の熱拡散が減少し,その後の温熱影響が増強する可能性が考えられる.さらに凍結手術によってHSP などの蛋白質が変性することにより,細胞修復機能や温熱耐性獲得が減弱する可能性も考えられる.そこで本研究では,能動的な温度制御を可能とする凍結温熱手術装置を作製すること,および凍結手術後温熱療法の影響も調査することを目的として実験を行った.
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