電解質溶液中にレーザー誘起されるイオン濃度場の数値解析

摘要

本研究では，レーザー光により液体に対して非接触に印加される電場とイオン濃度場の関係について調べる．電解質溶液中に照射されるレーザー光の電場によって誘起されるイオン濃度場の変化について理論的に解析する．これまでに，電解質溶液中のイオン輸送とそれに伴って生じる電場は自己無撞着的に解析されることを示してきたことから，さらに，レーザー光の交流電場が液中に照射される場合について考察する．Maxwell方程式に基づいて，レーザー光を単色の交流電場とし，液中における電流密度がゼロである場合を考える．さらに，静電ポテンシャルおよび外部電場によるエネルギーが熱エネルギーに比して小さいと仮定する．このとき，図1(a)の模式図に示すように，x方向の一次元空間に分布する陰陽イオンの二成分系についてPoisson-Boltzmann方程式を解いてイオン分布とポテンシャル場の関係を得る．ここで，x＝0の位置に電位がΦ_0の壁面があり，x＝Lの位置で電位ゼロとする．周波数fで振幅E_0の光の電場がE=E_0sin(2πft)の形であるとき，得られるイオン濃度場とポテンシャル場の時空間変化をそれぞれ図1（b），（c）に示す．イオンの数密度分布n(x,t)は平衡状態の一様な数密度n_0で，電位Φ（x)は素電荷eとの積をBoltznunn定数k_Bと温度Tの積で除し，時間tは交流電場の周期で無次元化されている．|eΦ_0|=k_BTおよびeE_0L=0.2k_BTとしたとき，イオンの濃度場は，特に陽イオンが負極の壁面近傍に集中し，光の電場によって時間的に振動する．図1（d）に示すように，x＝0での変化に注目すると，イオン分布とポテンシャル場は光の周波数に同期し，陰陽イオンの位相は反転する．これより，|eΦ_o|Φk_BTの場合，表面近傍で濃度勾配を形成するイオン分布は，交流電場の影響を受けて変動が顕著になることが示唆される．