固体表面近傍におけるNaCl水溶液の拡散に関する分子動力学シミュレーション

摘要

水は，人間を含むあらゆる動植物の生命維持に不可欠な物質であるが，人口増加や社会の発展にともない水需要は急速に増加することが予想されおり，近い将来に多くの国で水不足に陥ると言われている．地球上の表面積の70%を占める海水を淡水化することが水資源の確保の一つとして注目されているが，そのためには水に含まれる塩分を効率よく除去する技術が必要である．海水淡水化には様々な技術が開発されているが，大きな進展を見せている技術として膜分離技術が挙げられる．海水淡水化に用いられる逆浸透膜は100%に近い塩の除去率を有しており，海水淡水化プラントにおいて既に実用化されている．また，近年，海水と淡水を浸透膜で隔て，その浸透圧を利用して発電する濃度差発電の研究が進められている．海水淡水化および濃度差発電のどちらにおいても浸透膜の透水性能が非常に重要であるが，浸透膜の性能は時間の経過とともに低下してしまう．これは，透過を阻止されたNa~+やCl~-のイオンが膜表面近傍に留まることにより発生する濃度分極現象および不純物が膜表面に吸着するファウリングが原因であると考えられている．膜性能を維持するには，これら膜表面で発生する現象·メカニズムを解明することが重要であるが，膜の表面ごく近傍で発生する現象であるため実験的に観察することは困難である．そこで，本研究では，浸透膜表面近傍をモデル化した分子シミュレーションを行い，固液間の相互作用力が固体表面近傍における水分子やイオンの挙動について検討した．