列車運転士のブレーキ開始支援システムが運転時分に及ぼす影響

摘要

列車運転時におけるヒューマンエラーは，大きな事故につながるリスクが高いため，ハード側，ソフト側の両面からの対策が不可欠である．しかし，列車運転の多くは運転士の経験に委ねられており，列車運転士のヒューマンエラーを防止するためには，運転支援システムの開発が必要であると考えられる．これまで，ヒューマンエラーによるオーバーランを防止するために駅停止時に運転士に対して，現在の減速度を維持した際に予想される停止位置をリアルタイムに視覚的に呈示し，ブレーキ操作の判断の支援を行うシステムを提案した．列車運転シミュレータを用いた実験により，このシステムを用いることで，運転士に心的負荷がかかった場合でも，ブレーキを段階的に緩め，停止時に弱い減速度で停止することが可能となった．ただし，このシステムは予想される停止位置の計算に，ブレーキ操作によって生じる減速度を用いるため，ブレーキ操作の開始が遅れてしまった場合には，オーバーランを防止できない．また，ブレーキ操作の開始が通常より早まった場合には，減速度が一定で減少することを想定しているため，運転時分が延びる可能性がある．そこで，状況に応じた適切なブレーキ開始位置を，運転士に対して視覚的に呈示する支援システムを提案した．このシステムを用いることで，ブレーキ操作を開始するタイミングや運転時分のばらつきを小さくすることが可能となった．ブレーキ操作を開始するタイミングを変化させることにより，回復運転や列車を安全に停止させるために余裕をもった運転を行うことへの支援が可能になることが考えられる．しかし，ブレーキ操作を開始するタイミングを変化させることで，運転時分や安全に停止するための余裕にどのような影響を及ぼすかについては明らかになっていない．そこで本研究では，ブレーキ操作を開始するタイミングを変化させた場合に，運転時分や安全に停止するための余裕に及ぼす影響について，列車運転シミュレータを用いた実験により検討する．