高圧水素ガス中におけるクロムモリブデン鋼の疲労き裂進展の破面解析

摘要

クロムモリブデン鋼は，高圧水素ガスを貯蔵するための蓄圧器などの候補材料である．著者らは，これまで，35MPa水素ステーション蓄圧器から切り出した小型試験片を異なる焼戻し温度（550，600および650°C）で熱処理した3種類のSCM435鋼を作製し，高圧水素ガス中疲労き裂進展試験（水素ガス圧：90MPa）を実施した．小型試験片を熱処理することによって，後述するFig.1に示すように蓄圧器の組織に対して細かい組織が得られる．フラクトグラフィの観点から水素による疲労き裂進展の加速の引張強さ依存性を調査した結果，引張強さが900MPa未満の場合には粒内破面のみが観察され，加速の上限値が存在した．一方，引張強さが900MPa以上になると粒内破面に加えて粒界破面が観察され，疲労き裂進展速度の加速上限値が消失した．本研究では，引張強さに加えて組織の細かさの影響を明らかにするため，2種類の蓄圧器から切り出した2種類のSCM435鋼（A材，B材）の高圧水素ガス中疲労き裂進展試験を実施し，試験後の破面のフラクトグラフィを行った．そして，上記の5種類のSCM435鋼の破面様相を詳細に比較することにより，高圧水素ガス中におけるSCM435鋼の疲労き裂特性に及ぼす強度と組織の影響を明確にした．