湿り蒸気流量計測における標準化の現状とトレーサビリティについて

摘要

気体を取り扱う流量計測の分野において，未解決の課題が多く残されている領域を示すキーワードを列挙してみると，混相流，脈動流，ガス種の影響（混合ガス），高圧化対応などがある．特に，計量の標準化の観点では，混相流や脈動流の分野は整備途上，もしくは，整備以前の基礎研究の充実が必要な状況と著者は考えている．近年，省エネルギー対策は産業界を中心に劇的な対策が施され，世界水準で見ても日本の省エネ浸透度は相当なレベルまで到達してきている．例えば，2000年頃より，工場における圧縮空気使用の効率化にむけた空気流量の測定が活発となった．まず，省エネ対策を推進する初期段階では，圧縮空気の配管網における漏れ対策などを施工し，圧縮機の効率運用をはかることがなされた．その後，さらなる対策効果の向上のために，空気消費量に着目し，空気の流量計測を通して必要なところに必要量を供給するという，エネルギーフローのマネージメントが構築された．その結果，空気の流量計測技術が現場へ浸透するとともに，一方で流量計への高精度化や信頼性の確保などが望まれるなどの新たな課題も見いだされた．このように，省エネ実現には，計測対象の状態の正確な把握と得られた結果を活用した総合的なマネージメントが両輪となり，技術の成熟と現場への普及を伴うことで実現できることがうかがえる．ところで，産業分野をはじめとして，人々の日常生活では熱エネルギーが多く利用されている．熱媒体の供給形態には種々あるが，蒸気はその簡便性もあり多く利用されている．しかしながら，蒸気流量計測の分野は課題が山積している．蒸気供給設備は数多く存在しているが，流量計測を高精度に実現し，かつ前述のようなエネルギーフローのマネージメントまで実現している事例はまだ少ない．また，湿り蒸気を対象とする流量計測では，使用する流量計自体がクオリティにより，どのような影響を受けるかなどの性能評価も十分になされていない．さらに，計量のトレーサビリティを確保した環境で蒸気流量計を評価している例は国内ではほとhどなく，産業構造のグローバル化や流量計の実流評価の重要性が増す状況においては，これらの対策を急ぐ必要がある．言い換えれば，流量計の高精度化の実現とトレーサビリティの確保は，設備の制御性や安定性向上に寄与し，設備能力の有効利用にも結び付く結果，信頼性を確保しつつ，省エネ実現への道筋がみえてくると考えられる．本稿では，計量のトレーサビリティの概要について，今一度整理するとともに，湿り蒸気流量計測に関する標準化の動向を説明する．加えて，国際規格類やガイドラインについても近況を踏まえた解説を行うとともに，今後取り組むべき課題などについてまとめる．