環状ポリマーブラシの摩耗メカニズムに関する粗視化分子動力学シミュレーション

摘要

ポリマーブラシは優れた低摩擦特性や生体適合性を有するため，人工関節などの低摩擦材料として注目されている．ポリマーブラシは，重合反応によって，高分子鎖を基板から垂直方向に成長させることで，形成される絨毯のような分子組織である．従来は，ブラシ密度が小さい準希薄ポリマーブラシしか作成できず，生体内の細胞やタンパク質の吸着による機能低下が問題であったが，近年の技術の発達により，ブラシ密度が大きい濃厚ポリマーブラシが合成可能となった．濃厚ポリマーブラシは，優れた低摩擦特性や高度な生体適合性など準希薄ポリマーブラシより優れた性質を有することが知られており，実用化に向けた研究が進められている．実用化に向けての話題の一つは更なる耐摩耗性の向上であるが，耐摩耗性に影響する要素の一つにブラシ形状が考えられる．最近，ポリマーブラシの形状を環状にしたサイクルポリマーブラシが低摩擦を示すことが報告されている．しかし，ブラシ形状が耐摩耗性に与える影響は明らかになっていない．そこで，本研究ではブラシの形状による違いを検討するため，形状が異なるサイクルポリマーブラシとポリマーブラシの2種類のモデルを用い，粗視化分子動力学シミュレーションによりブラシの摩耗メカニズムを検討した．