グリースの膜厚定量における二種の蛍光剤による蛍光増感効果

摘要

自動車用ボールジョイントは大きな回転角や揺動角を有した高自由度の継手部品であり，タイロッドエンド等に用いられる．一般にはボールスタッド先端の金属球を樹脂製のボールシートを介して金属製のハウジングが包み込む構造であり，金属球とボールシートの間には潤滑用グリースが封入されている．現在，ボールジョイントの設計は経験に基づく部分が多く，運動方向の自由度の高さなどにより，ボールジョイント内での潤滑状態は不明な部分が多い．潤滑不良はボールシートの摩耗原因となるため，適切な設計指針が必要となり，ボールジョイント内での潤滑状態を知る必要がある．例えば，油膜の膜厚計測には光干渉法が広く用いられるが，広範囲を計測することは難しく，実機に組み込むことも困難と思われる．近年，蛍光剤を添加した潤滑油の蛍光強度が油膜厚さに応じて変化することを利用した蛍光法が開発され，稲垣らがCCD カメラを用いてエンジンオイルの動的挙動の油膜分布計測を行っている．グリースにおいては東崎らが蛍光法による油膜厚さの定量的な計測を試みている．蛍光法とCCD カメラにより潤滑膜厚の経時変化とその挙動を直接観察できれば，油膜切れの発生メカニズムの解明につながると期待できるが，動画画像から膜厚を計測するためには十分な蛍光強度が必要となる．また，増ちょう剤を含むグリースはオイルに比べて光学的透明性が低いこともあり，薄い膜厚においては蛍光強度の不足が予想される．本報では膜厚計測の基礎データの収集を目的とし，蛍光強度不足を補う手法として，励起·蛍光波長の特性から増感効果が期待できる2 種の蛍光剤を同時に添加する効果についても調べ，基油を用いた実験で膜厚の定量を試みた．