マイルド摩耗を維持するための雰囲気気体の条件

摘要

前報で筆者らは鉄同士の摩擦のシビア·マイルド摩耗遷移における水蒸気と酸素の役割について，ある湿度以上でマイルド摩耗を呈する臨界湿度が存在し，酸素の存在はその臨界湿度を下げる役割があることを報告した．マイルド摩耗状態を維持することは機器部品の長寿命化，なじみの効率化，摩擦の安定性の向上などにとって欠かすことができない．しかしながらマイルド摩耗は，摩擦条件の変化によって容易に破られることがある．たとえば銅対鉄の摩擦において，マイルド摩耗面形成後に摺動条件を厳しくすると，ある臨界荷重または速度以上でシビア摩耗へ遷移する[2]．ただしこの実験では摺動条件の変化の影響のみ取り上げられており，雰囲気気体条件については検討されていない．筆者らはこれまでの研究から，雰囲気気体の存在がマイルド摩耗成立の鍵を担うことを示しており，マイルド摩耗破綻の本質も雰囲気作用との関連でとらえるべきもの，との立場をとっている[1]．そこで本研究では，鉄のマイルド摩耗維持のための雰囲気気体の条件，特に水蒸気と酸素の役割について明らかにすることを目的とした．