Savage は黒鉛の摩耗に対する速度の影響について,すべり速度が速いほど摩耗量が多くなることを示した.この摩耗促進の原因について,速度が増すほど摩擦面の温度が上昇し,表面の水の吸着量が蒸発によって減少したためであると彼は考察した.雰囲気圧力の上昇とともに黒鉛の摩耗量が減る実験とあわせて,黒鉛の低摩耗は表面の水分子の吸着によってもたらされるものとしている.水蒸気の吸着量に対しては表面の温度のみでなく,表面の雰囲気への曝露時間(摩擦面のある一点が摩擦されてから次の摩擦までに要する時間すなわち非摩擦時間)も影響するはずである.連続繰り返し摩擦ではすべり速度と非摩擦時間は反比例の関係にあるため,低速度における黒鉛の低摩耗メカニズムに対して非摩擦時間が長くなったことが寄与していると想像される.しかしながら,黒鉛の摩耗の速度特性の解釈には非摩擦時間の効果は含まれていない.過去に筆者らは,摩擦速度と非摩擦時間の一方を一定にしたまま他方を変えることが可能なツィンリング型摩擦試験機を開発し,鉄同士の摩擦において速度が低下するほど,また非摩擦時間が短いほど摩耗が少なくなることを明らかにした[2].このことは速度と非摩擦時間の効果についてそれぞれ独立して検討しなければならないことを意味している.そこで本研究では,このツィンリング型摩擦試験機を用いて湿度,非摩擦時間,摩擦速度のうちそれぞれ1 つを変数とする3 種類の実験を行い,黒鉛の摩耗に対するこれらの影響について明らかにすることを目的とした.
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