真空蒸発するアルゴン液膜の遷移層における圧力分布

摘要

気液二相系は工学において重要な系であるが，気液界面における蒸発·凝縮には未解明の問題も多く残されている．気相と液相の境界面である気液界面は，微視的には密度や圧力などの物理量が連続的に変化する領域であり，遷移層とよばれている．その厚さは，たとえば，三重点近傍のアルゴンの密度分布においては1nm程度であり，たかだか分子2，3個分程度の長さスケールである．この極めて微小な領域を介して気相と液相は共存しており，蒸発·凝縮にともなう分子レベルの質量·運動量·エネルギー輸送によって気相と液相の状態が結びつけられる．分子動力学シミュレーションは蒸発·凝縮の研究において重要な役割を担っており，これまでに，蒸発係数の温度依存性や蒸発分子の速度分布関数などに関する重要な知見が明らかにされてきた．本研究では，蒸発·凝縮のさらなる本質的な理解のため，微視的観点からこれらの結果を説明する知見を得ることを目的とし，遷移層の構造およびその内部における分子運動に焦点をあてた研究に取り組hでいる．本稿では，真空にさらされたアルゴン液膜の蒸発に関する非平衡分子動力学シミュレーションを行い，遷移層の圧力分布や密度分布を求めるとともに，先の本研究で求めた気液平衡状態における結果との比較から，非平衡状態に起因する特徴などについて考察する．