マルテンサイト組織におけるクリープ損傷発生機構と寿命

摘要

高クロム鋼の先駆けとなるGr.91（9Cr-1Mo-V-Nb鋼）が世界で最初に火力発電プラントに本格的に使用された1989年からすでに四半世紀が経過している。もともと高温配管にはCr-Mo鋼のGr.22（2.25Cr-1Mo鋼）が使用されていたが、高クロム鋼が使用されるようになってから、使用中に溶接熱影響部細粒域に発生するType IV損傷が問題視されるようになった。しかし、従来のCr-Mo鋼においても長時間使用後にマルテンサイト組織を呈する溶接熱影響部粗粒域においてクリープ損傷（Type III損傷）が生じることが知られている。発電プラントにおいて材料を安全に使用するためには長時間使用後の材料状態や寿命を正確に把握することが必要である。しかし、高クロム鋼の場合、Cr-Mo鋼のType III領域のマルテンサイト組織と同様の組織を呈しているにも関わらず、組織が複雑なため、劣化状態や寿命の予測および損傷の検出は極めて困難である。したがって、Cr-Mo鋼のマルテンサイト組織におけるType III 損傷と高クロム鋼のマルテンサイト組織におけるType IV 損傷の機構を比較することは高クロム鋼溶接部の損傷および寿命評価技術を研究において重要である。本研究ではクリープボイド発生に及ぼす力学的および組織学的因子について調査し、Cr-Mo鋼と9-12Cr鋼の溶接部におけるクリープ損傷の発生機構を比較検討した結果について述べる。