内臓の個別臓器を含む人体有限要素モデルの開発

摘要

我が国における自動車事故の乗員の受傷部位は，頭頚部が半数以上と最も多く，胸部や腹部は約6%と少ない．しかし，部位別の死亡率は，腹部が3.4%と最も高く，次いで胸部が1.6% であり，胸腹部の内臓損傷が死因となることが多く，その受傷メカニズムの解明が望まれている．一方，交通事故ミクロ調査によれば，ドライバの約6 割が前突時にブレーキやハンドル操作など何らかの衝突回避操作を行っており，身体動作に伴う筋活動が乗員の挙動や傷害に影響を及ぼす可能性があることが指摘されてきた．衝突時の乗員の受傷メカニズムを解明するためには，計算機上で人体の挙動や傷害を予測する人体の有限要素(Finite Element: FE)モデルが有用であり，近年多くの研究者が利用している．本研究では，実事故における乗員の内臓の受傷メカニズムを解明することを目指して，内臓の個別臓器を含み，かつ全身の筋を模擬した人体FE モデルを開発している．本報では，モデルの検証結果について報告するとともに，内臓の受傷メカニズム解析への適用性について議論する．