世界における太陽熱利用システムシミュレーションツールの比較と日本における一般的システムの再現性の検討

摘要

我が国における太陽熱利用システム普及のためには、太陽熱の専門家だけではなく、一般の建築·設備設計士が利用できる、簡便な太陽熱利用システムのシミュレーションツールが必要である。太陽光発電システムでは、メーカーのホームページなどでオンラインの発電量シミュレーションが実行できる環境が提供されており、専門家のみならず、一般の消費者への有効な情報提供が行われている。最終的には太陽熱でも同様のオンライン環境が整備されるべきであるが、太陽熱は光発電よりも多くの計算に関連する変動要因があることから、まずここでは設計士が予備検討で利用することを想定する。このシミュレーションツールに必要と考えられる要件は以下のとおりである。① 安価または無償であること。② ユーザーフレンドリーなGUI が整備されており、直感的な操作が可能であること。③ 必要とされる入力変数が少ないこと。④ 日本で使用されるシステムの再現ができること。とくに注意すべきこととして、研究開発レベルのような高い計算精度は、必ずしも必要ではないという点がある。予備検討のためのツールであることから、精度よりも簡便さの優先順位のほうが高い。なお、日本国内で開発された無償の太陽熱シミュレーションツールとしてEESLISM があるが、現時点ではGUI が十分に整備されていないことから、本報告では対象から除外する。海外に目を向けると、デザイナー向けの太陽熱利用システムシミュレーションツールは1990 年台前半から多く市場に投入されてきているため、本研究では、日本国内で新たなツールを開発するよりも現実的な方法として、海外の既存ツールを日本のシステムに適用させる可能性を探ることを目的としている。まず、2014 年10 月現在で、世界中で活用されている主要なシミュレーションツールとしてTRNSYS、 Transol、Polysun、TSOL、およびGetSolar に着目し、費用や機能についての概要をまとめる。次に、既往の研究報告で日本におけるフィールド実測との計算精度の整合が確認されているTRNSYS17 を指標として、Transol とPolysun professional の二つのツールを用いて簡易シミュレーションを用い、日本の太陽熱利用システムに対する利用可能性を検討する。