圃場で栽培されている農作物は、太陽光エネルギーのすべてを光合成に利用できるわけではなく、光エネルギーの多くは未利用である。筆者らは、光合成に利用されない太陽光エネルギーの一部を透光性太陽電池で電気エネルギーに変換し、この電気を利用して、生育調節シグナルとして働く光を植物に補助的に照射することで、農作物の生産性や品質を飛躍的に向上させる栽培システムの開発に取り組hでいる。本研究では、対象作物として和歌山県で古くから栽培されている薬用紫蘇を選hだ。我が国におけるシソの食用としての利用は縄文時代に遡るが、薬用としての利用は遣唐使によって医療技術とともに中国から伝えられたと言われている。本研究に用いた'紀州在来薬用紫蘇'は、薬用のアカシソ(Perilla frutescens var. crispa f. purpurea)であって、ふりかけや梅干しなどに用いられるアカチリメンシソ(Perilla frutescens var. crispa f. crispa)や刺身のつまとして利用される大葉紫蘇(Perilla frutescens var. crispa f. viridis)とは同じ亜種に属する。しかし、機能性香気成分のperillaldehyde (PA)の含有量は、アカチリメンシソでは0.18μl/g(生葉)であるのに対して、'紀州在来薬用紫蘇'では7 倍の1.34μl/g(生葉)に達する。このように、同種でありながら機能性成分の含有量が著しく異なることから、薬用紫蘇と食用のシソとは、永年にわたって明確に区別されて管理されてきたと推察される。PA は、薬用紫蘇(ソヨウ)を定義する指標成分でもあり、第十六改正日本薬局方では「生薬の乾燥物に対して0.08%以上のPA を含む」ことが条件とされている。PA には、古くから強い抗菌作用が知られている2) ほか、近年では中枢神経抑制作用3) や血管拡張作用4) も報告されている。また、シソの水溶性ポリフェノールの一種であるrosmarinic acid (RA)には、血糖値上昇抑制作用やアトピー性皮膚炎の軽減作用が報告されている。このようにシソは高い機能性を有する作物であるが、その栽培においては、特に虫害が著しく、薬剤散布が欠かせない。この点、太陽光利用型植物工場を用いれば薬剤散布の回数を減らすことができる。しかし、生産コストの上昇を付加価値の向上によって相殺する必要がある。また、植物工場の稼働率を上げるためには周年生産されることが望ましい。そこで本研究では、紀州在来薬用紫蘇'に青色光あるいは遠赤色光の補光を行い、これが'紀州在来薬用紫蘇'の花成や機能性成分含有量に及ぼす効果を調査した。
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