極座標系ミンコフスキー空間内の位相周波数領域演算に基づく音場模擬の検討

摘要

本研究は破損した伝統工芸品に対する情報復元の一環として，聴覚情報の復元を目標としている．本研究では， 図1に示す通り，伝統工芸品の破片から得られる音響特性を測定し，復元きれた形状について音の伝播を模擬することにより聴覚情報を復元する．音の伝播を模擬する ため，本研究では音場模擬手法を採用している．特に波動方程式を差分法で解く有限差分時間領域は，音減座標から任意の座標までのインパルス応答を，音の波 動性に基づき容易に予測でき，伝統工芸品における打撃音の復元に有効である．有限差分時間領域法はインパルス応答の予測に有効であるが，差分法の近似演算により数値分散を生じることが知られており，差分法の近 似精度を向上させた手法が数多く提案されている． しかしながら完全な数値分散の抑圧は達成しておらず， 特に不均一な位相速度による波束の乱れが問題であった． そこで我々は，空間の音圧分布を空間周波数領域に写像し，空間周波数領域で演算を行う手法を提案した．この手法は数値分散の抑圧に有効であり，位相速度の乱れを 改善できることが示きれている．しかしながら，空 間周波数領域への写像が必要であり，離散フーリエ変換 （DFT；Discrete Fourier Transform）に基づく計算機シミュレーションでは周期性による回り込みが問題であった．そこで本研究では，極座標表現したミンコフスキー空間における位相領域の周期性に着目し，DFTの周期性に基づく回り込みが発生しない演算手法を提案する．