嫌気的代謝閾値の代替となり得る簡易体力指標に関する基礎的検討

摘要

近年,国民医療費の増加が深刻な問題となっており,特に生活習慣病関連の疾患は国民医療費全体の約3分の1 を占めていることから,医療費削減のために治療型医療から予防型医療へと移行する動きが広まっている．具体的な国家政策として2008 年4 月より「特定健康検診·特定保健指導」が実施され,メタボリックシンドローム,生活習慣病などの疾病予防や普段からの運動習慣付けなど「健康維持·体力向上」機運が高まっている．例えばフィットネスクラブ 数やジョギング人口は年々増加傾向にあり,健康維持,体力向上のモチベーションを維持するためには普段の運動やトレーニングにより自分の「体力」がどれだけ向上したかを「数値」として示すことが重要で,簡単に計測できて信頼性のある評価方法と指標が必要である．体力を評価する指標としては,呼気ガス分析装置ににより得られる最大酸素摂取量や嫌気的代謝閾値(AT) などが呼吸·循環·代謝の総合的運動耐容能を表す指標としてアスリートの持久力測定やトレーニングに利用されるだけでなく,心不全における心機能分類の指標や,治療効果判定,運動耐容能測定および運動療法やリハビリテーションの際の運動処方作成などに利用されている．従って AT を非常に簡便に測定できれば,フィットネスクラブや個人のジョギングなどのトレーニング効果を「可視化」でき,運動習慣を持続させるモチベーション向上にもつながり,また心臓リハ領域での有用性も期待できる．しかし現状では呼気ガス分析装置を用いるために限られた施設でのみ計測可能で,呼気採取マスクを装着するなど被験者への負担も少なくない．そこで本研究では無侵襲的な方法であり被験者への計測の負担が比較的軽微で,将来的に健康診断レベルの適用が期待できる胸部電気的アドミタンス法に着目した．具体的には運動負荷に対する心機能変化を当該法で無侵襲的に計測し,各個人の体力を心臓の「予備力」という観点から評価可能か,さらには呼気ガスモニタ装置により同時計測した呼吸·代謝機能変化との対応を検討し,ATの代替となり得る簡易指標が得られるかどうか予備的実験を行った．