エタノール／シクロヘキサン混合溶液系でのエタノール拡散係数モル比依存性の分子論的解釈

摘要

多成分混合溶液は工学分野において広く利用されている. 例えば熱工学の分野では熱機関の熱媒·冷媒として,化学工学の分野では反応溶媒として, 機械工学の分野では潤滑剤として利用されている. これら応用先で混合溶液物質選択の決め手となるのは物性値（特に輸送係数）である. 単成分系について様々な熱力学条件のもと物性値が詳細に調べられている一方, 多成分溶液に関してはその物質の組み合わせは膨大にありすべてを詳細に調べることは現実的でない. そのため多成分混合溶液の物性をあらかじめ予測する方法論が必要とされている. 特に混合溶液の自己拡散係数および相互拡散係数を混合モル比の関数として予測する方法についてはこれまで数多くの理論的, 経験的提案がなされてきた.[1-3] 加えて, 近年分子動力学シミュレーションを始めとする分子シミュレーションによって得られた知見を生かし分子レベルから物性値を予測する試みがなされてきている. [4-6] 分子シミュレーションは物性分野において理論, 実験に次ぐ第三の手法としてその有効性を示しつつある. 本研究では特にエタノール／シクロヘキサン混合溶液について分子動力学計算の結果に基づきエタノール自己拡散係数の溶液モル比率依存性の分子論的解釈を図る. エタノール／シクロヘキサン混合溶液は界面活性剤／潤滑油混合溶液の一例であり本研究で得られた知見は機械油添加物の分子レベルからの設計に貢献しうるものである.