実海象中の船舶性能を再現する規則波条件を決定するための一手法

摘要

IMOによるEEDI規制の導入に伴い，昨今では外航船の基本設計時に実海域推進性能を考慮することは最早必須であり，その査定のため波浪中模型試験を実施することも近年では一般的である．このような背景のもと, 海上技術安全研究所とナカシマプロペラは水槽模型試験により実海象で想定される波浪中プロペラトルク変動を考慮した推進性能評価のための実用的実験手法の開発に取り組hでいる．実船は不規則波浪中を航走するため，波浪中模型試験においても相似な不規則波条件で計測を行えば，不規則波中抵抗増加や船体動揺の直接的な評価が可能になり望ましい．ここで，実海面のような多方向性を有する不規則波浪場を造波するには多面式かつ分割型の造波装置を適用するのが有力である. 一方，波浪中プロペラトルク変動はプロペラ形状や翼の剛性の影響も大きく，直径250mm以上の大型模型プロペラによる評価が望ましい. しかし，多面式の造波水槽では大型模型プロペラを備えた大型模型船による試験が実質的には難しく，試験レイノルズ数の不足という観点からはプロペラ形状や翼の剛性に着目した推進性能評価に用いることは容易ではない．他方，EEDI認証に利用される長水槽では模型プロペラサイズは大きくできるが，造波装置は一面方式の一方向造波が基本である．そこで実海象で想定される不規則波浪場中に相当するプロペラ負荷状況を長水槽の規則波中で再現できれば，試験レイノルズ数の問題を解決しつつ、実海象を想定したプロペラトルク変動の影響を考慮した推進性能評価が可能になり，実用的なEEDI認証への適用が期待できる．本研究はこの一環として，実海象中の船舶性能を模型試験で直接評価できる規則波条件の決定手法について検討した．本論文では実海象中の船舶性能を再現する規則波を広く“相当規則波”と呼び，2節にて目的とする規則波条件に決定するための検討とその手法について説明し，3節ではバルクキャリア船型を対象に実際に相当規則波の条件を決定した実例を示す．