ラットバレル野を対象とした高密度多点皮質脳波電極の評価

摘要

低侵襲性，高情報量，長期安定性という特徴を持つ皮質脳波信号計測（Electrocorticography; ECoG)が注目されている.近年，ECoG電極については，より精密な脳活動計測を目的として電極アレイの高密度多点化が進められている.しかしながらこれまで，高密度多点化の評価については，電極ァレイの単純な電気的特性の評価に重きが置かれることが多く，工学的あるいは生理学的な有用性の検討については不十分な検討に留まっていた.つまり，高密度多点化を行つても，必ずしもより多くの情報が得られる訳ではなく，例えば脳表の電位分布の空間解像度を超えた高密度多点化を行っても，得られる情報が増えない可能性があるが，従来はこうした観点からの評価が行われてこなかった.本研究で，我々は電極を高密度多点化することの機能的な有用性を検討することを目的とし，評価方法としてバレル野の計測を行うこととした.バレル野は個々のゥイスカー（ヒゲ）に対応するバレルと呼ばれる境界明瞭な構造が整然と配列していることが知られ，バレルの直径は約300μmと極めて微細である.近年，ECoG電極の計測点サイズゃ計測点間距離は1mm以下のサイズにまで達しており~([3]),このようなサブミリスケールの電極構造によって，サブミリスケールの機能的なシグナルが読み取れるかどうかを検証することは重要であると考えられる.また，ゥイスカーを個別に刺激でき，各バレルの誘発電位計測はこれまで十分に検討され，バレル野の構造は組織染色によって解剖学的な配置が可視化できるため，誘発電位の空間分布に関する評価が行いやすい.さらに近年，バレル野に存在する個々のニューロンにゥイスカーの動いた方向についての方位選択性があることや，異なる方位選択性を持つニューロンが空間的な偏りをもって配置されていることが示されている.どのバレルが刺激を受けたかという情報のみならず，どのように動いたかという情報が高密度多点化によつても読み取れるかどうかも検討することは，高密度多点化の機能的な有用性の評価にとって重要だと考えられる.