漁村における生活行動·交流の変化にみる領域感覚に関する考察: COVID19対策に伴う緊急事態宣言前後の和歌山市加太地区に着目して

摘要

2020年4月16日，政府は，新型コロナウィルス感染症対策として，新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき，4月7日に宣言した緊急事態措置の区域を全都道府県に対し実施した。不要不急の外出自粛要請による行動制限は，日常における行動圏域に大きな影響を与えた。職住分離の地域構造である都市部では，「3密」を避けるため，「スティホーム」，「テレワーク」を中心とした自宅内における生活様式が推奨された。一方で，職住近接である一次産業を中心とする農山漁村地域では，生活圏と経済圏が重なる場合も多く，都市部とは異なる生活行動·交流の変化が推察される。さらに，密度の高い地縁·血縁によって住民構成がなされる場合の多い農山漁村では，緊急事態宣言下において，他地域からの他所者に対し，駐車場を封鎖したり，訪問を断るなどの地域内への侵入を拒否するなどの動きもみられた。この「地域を閉じる」動きは，感染の恐れのある地域外の人間から地域内の安全を担保する地域住民意識が「地域の内と外」を区分する領域感覚として表出した行動と捉えることもできる。