農作物の放射性セシウム吸収抑制対策が流域の水質に及ぼす影響

摘要

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により福島県を中心に多量の放射性セシウムが沈着した。農作物による放射性セシウムの吸収が懸念される地域では、放射性セシウム吸収が同族元素のカリウムと競合することを利用して、作土の交換性カリウム量を増やして吸収抑制を図っている。カリウム資材としては主に塩化力リウムが用いられているが、塩化物イオン(Cl~-)は土壌への吸着性が低く、作土から容易に流亡すると考えられる。Cl~-濃度は水道水質基準が定められている。放射性セシゥム沈着量が比較的多い福島県中部•東部の水道普及率は2019年時点で90%以上だが(福島県，2020a)、給水対象外の約10万人は民家井などを飲用水源にしていると考えられる。そこで本研究では、カリウムによる吸収抑制対策を行っている地域を対象に地下水のCl~-濃度に顕著な上昇が生じていないか調査した。加えて、農地排水の影響を受けやすいと考えられる河川水も調査対象とした。