事象の時間的配列に対する認知処理における概念メタファーの影響

摘要

本研究においては，日本語話者が概念としてもつと考えられる「過去は左，未来は右」という時間に関する空間的方向メタファーが，事象間の時間判断という認知処理に与える影響を検討した。この方向のメタファーに矛盾する形での反応を求められた実験2 については，それに最初に取り組hだB 群参加者たちの正答率が，A 群参加者が最初に取り組hだ実験1 の正答率よりも明らかに低くいことから，この空間的方向メタファーが認知処理に影響を与えていることが示唆された。さらに，事象の時間関係の判断に成功した試行に限定し，その応答時間を比較した場合に，B 群において2 つの実験間の平均速度に有意差が見られた参加者がより多いという結果も示され，この点も時間の方向メタファーの認知処理への影響を示すものと評価できるかもしれない。また，そもそも，それぞれ10 名ずつにグループ分けした参加者のうち，B群のみがその半数の5名において，正答率80％を下回ったという事実が，この「時間の方向性のメタファー」が認知処理に影響を与えていることを強く示しているのではないかと考えられる。