マウス視覚野における集合活動電位発火の誘発 - 皮質内電流刺激パラメータの検討

摘要

生物の脳は無数の神経細胞が複雑な回路構造を形成しており，その脳内部の回路構造を明らかにするため，脳から摘出した切片を試料とするin-vitro 実験が頻繁に行われてきた．その際，意図的に神経興奮を引き起こす手段の一つとして，試料内へ刺入した電極を用いた細胞外電流刺激が用いられてきた[1]．また近年では人工視覚や人工触覚等の神経補綴応用においても，電気刺激による神経活動の制御に関心が集まっている[2][3]．それらの刺激によって誘発される神経興奮の時空間特性を知ることは，低電流で効率の良い電気刺激を設計するうえで非常に重要である．このような背景の中，脳皮質内における微小電気刺激の神経応答計測については，従来から細胞外電位記録に代表される電気的計測手法を用いた検討がなされてきた[4][5]．しかし，電気的計測では，パルス通電刺激による電気的アーティファクトが記録に重畳するため，刺激直後に電極の極近傍に誘発される神経興奮を直接捉えることは困難であり，解析に制限が生じていた．そこで過去に我々の研究グループでは，サブミリ秒分解能での光学的イメージング手法を用いることによって，単発の電流パルス刺激に対する神経興奮応答の時空間的特性を計測・解析してきた[6]．一方，他の研究グループにより，連発の繰り返しパルス刺激に対する応答について，神経興奮の間接的指標となる細胞内Ca~(2+)濃度変化[7]や内因性光信号[8]の光学的イメージングが行われている．但しこれらのイメージング手法では，神経応答の空間的な分布を計測範囲全域で捉えられることは可能だが，イメージングのフレームサンプリングは数十frame/sec以下（2.5-31 Hz[7], 5 Hz[8]）と比較的低速の計測となるため，個々の刺激パルスの直後に誘発される集合活動電位発火を直接的に捉えることは困難であった．そのため，こうした連続パルス刺激の周波数および刺激持続時間（刺激パルス数）が，神経興奮応答の時空間的特性に与える影響については殆ど明らかとなっていない．そこで本研究では，膜電位感受性色素を用いた高速イメージングによって，電気刺激で誘発される神経応答に対する刺激周波数の影響について検討した．