非整数階微積分を用いたタンクシステムのモデリングとオペレータ理論に基づく非線形制御

摘要

昨今，プラスチックに代表される化学製品は日常生活に必要不可欠なものとなり，それを生産するプラントもまた休止することなく日夜稼働するようになった，それにともない安全性を保ちつつもより効率的である制御を目標としてプロセス制御に関する研究が盛hに行われている.本研究におけるプロセスとは自動車やコンピュータ等の組み立て産業の製造工程ではなく，化学プラントや電力プラント，製鉄プラント，製紙プラントといった産業のことを指す.プロセス制御では制御対象の数式モデルが非線形となることは珍しくない.非線形な数式モデルの一例としては非整数階微積分を用いたモデルが挙げられる.非整数階微積分は通常の微積分を内包した概念であり，従来整数階微積分で表現されてきた物理現象の中にも非整数階微積分で表現されるものが存在する.熱交換に関わる現象にも非整数階微積分で表されるものがあり，プロセス制御のプラントに用いられる熱交換器は非整数階微積分によってモデル化されると考えられる.オペレータ理論は制御対象における数式モデルの入出力関係を入力信号空間から出力信号空間への写像として捉えることにより，非線形要素を含hだ制御対象に対して線形近似を行うことなく実際のシステムにより近い非線形数式モデルを制御系設計に取り込める制御則である.オペレータ理論を用いる制御では仮にプロセスのモデルに不確かさが含まれる場合でもロバスト安定性の解析が比較的容易であり，MIMO制御系への拡張も可能である.プロセス制御のブラントは大規模かつ複雑であるため正確なモデリングが困難であり，数学モデルに不確かさが含まれることは避けられない.オペレータ理論はロバスト安定性解析が可能な非線形制御手法であるため，プロセス制御に適した制御手法であるといえる，本研究ではタンクシステムの熱交換器に対する非整数階微積分を用いたモデル化手法を提案する.また，提案した非整数次のモデルに対してオペレータ理論に基づいた制御系を設計し，シミュレーションと実機実験によってその有効性を検証する.さらに，モデルの不確かさに対してロバスト安定条件を満たすことをシミュレーションによって確認する.