超小型深宇宙探査機によるシス・ルナ空間の宇宙資源探査

摘要

2016 年7 月現在，地球近傍小惑星(NEOs; Near-EarthObjects)は，15,000 個近く発見されている．これらのNEO の約60%は有機物や水に富むC/D/X タイプの小惑星で，岩石質のS/Q タイプ小惑星は40%に満たない．一方，地球上で採取される隕石の80%はS/Q タイプ小惑星に類似する普通コンドライト(ordinarychondrite)であり，C タイプ小惑星に類似する炭素質コンドライト(carboneceous chondrite)は20%に過ぎず，NEO と隕石の物質分布に大きな隔たりがあることが，長年の未解決問題となってきた．一方，直径が100m以下のNEO は，その90%以上が未発見であるのが現状であるが，2013 年8 月に開始されたMANOS(Mission Accessible Near-Earth Object Survey)による約300 個のNEO 分光観測によると，直径が100m 以下のNEO では，C/D/X タイプ小惑星が約80%，S/Q タイプ小惑星が約20%となり，地球に落下する隕石種の分布に非常に近い結果となっている1)．これらのサブkm サイズNEO は，将来の小惑星資源採掘の有力な対象天体である．資源探査・採掘を行うNEO は，地球軌道と交差するアポロやアテン型小惑星が一般的に考えられているが，近年，地球重力圏に数ヶ月から数年程度の短期間捕獲されるm サイズのTCO（Temporarily-Captured-Orbiters or Mini Moon）が発見され注目されている．直径3〜6m の微小な地球近傍小惑星2006 RH120 は，2006 年9 月から2007 年6 月までの間，地球の重力圏に捉えられて，自然衛星として周回する一時的な「第2 の月（mini-moon ミニ・ムーン）」となっていた．また，2016 年4 月７日にハワイのPan-STARRS 全天サーベイで発見された2016HO3 は，直径40〜100m と見積もられ，かつて半世紀に渡って地球のミニ・ムーンとなっており，今後再びミニ・ムーンとなる可能性があることが判明した2)．理論的なモデル計算からは，直径1m サイズのTCO が複数と数千個のcm サイズのメテオロイドが，常に地球重力圏に捕獲されてTCO として存在していることが指摘されている3)．TCOの平均対地速度は，2km/s 程度であり，低ΔV で容易にランデブーや回収できることが期待される．また，TCO が地球大気圏に突入して火球となるcm サイズのTCO メテオロイドの存在までも明らかになり4)，TCO ミッションが現実味を帯びてきた．