モデルベース開発(MBD)教育の実践

摘要

製品に対する顧客のニーズは，年々，多様化·複雑化しており，企業はこれらの要求に迅速に応えなければならない。しかしながら，自動車などの複雑なシステムでは，最適なコンポーネントの組み合わせやその調整パラメータが無数に存在し，実物を用いた設計や調整を行うには膨大な時間と費用を要する。また，近年では国際的な開発競争の激化から，製造にかかるコストや時間をできる限り抑制しなけれぱならない。一方，コンピュータの発展はとどまることを知らず，ワークステーションなどの高性能なコンピュータが過去に比べて安価に導入できるようになった。このような背景から，近年では複雑なシステムをコンピュータ上で実現し，机上でシステムの設計·検証を行うモデルべース開発(Model Based Development：MBD)の重要性が増しており，産業界では急速に適用が進hでいる。MBDは従来の要求仕様書に基づく開発とは異なり，各コンポーネントをシミュレーションモデル(実行可能な仕様書)として定義し，コンポーネント同士の関係性をブロック線図として記述することで，コンピュータ上での様々な動作検証を可能としている。MBDはV字開発プロセスと呼ばれる開発プロセスに沿って実行される。V字開発プロセスの中には，コンピュータシミュレーションが重要な役割を担う工程として，Model In the Loop Simulation (MILS)とHardware In the Loop Simulation (HILS)がある。MILSでは，システムを構成するコンポーネントをすベてモデル化したうえでこれらを結合し，システムの挙動の解析や制御系設計などを行う。HILSでは，MILSで設計されたコントローラアルゴリズムを実際のECU (Electronic Control Unit)に実装し，実時間シミュレーションによってロバスト性や安全性の検証を行う。ただし，検証に使用される制御対象には，HILシミュレータと呼ばれる制御対象の挙動を模倣可能なコンピュータを用いる。これにより，コントローラの検証のための試作機の製作が不要となり，時間とコストが大幅に削減できる。