河川事業に資する生態水理学の現状と課題:適切な物理的撹乱状態の管理に向けて

摘要

1997年の河川法改正に伴い，環境が河川管理の目的として位置づけられ，約16年が経過した.近年までに多くの治水·利水と両立した環境管理のあり方に関する学術的研究が実施され，その一部は河川管理においても適用されて来た.河川技術シンポジウムにおいても2004年に生態学と河川水理学の連携に関するOSが開催され，樹林化と付着藻類に関する総説が発表されている.2013年には樹林化研究に関する総説が発表され,2004年以降の樹林化研究は多様期に相当し知見も蓄積されつつあるが，切り下げや伐採等の実務への適用にあたっては課題が残存していることから，今後のシナリオや類型化の必要性が指摘された.一方，樹林化と並ぶもう一つの河川生態系として，常時水中に没する空間(以後，低水路空間)における，付着藻類，水生昆虫等底生動物および魚類等の生物群集がある.これらに関しては，ダム下流の土砂還元に関連する多くの研究が実施されているが，現地での現象解釈にとどまる傾向があり，樹林化現象に比べて進涉は遅れている.今後は土砂還元の進行過程の理解や，土砂還元等が低水路生態系へ与える影響のメカニズムの解明が必要である.進展度は異なるがそれぞれ両課題に更なる研究が求められる.