曲仕上げ過程における演奏空間の音響特性がピアノ奏者の演奏表現に与える影響について（その1）: 室の残響時間の違いがピアノ奏者の初見の演奏行動に与える影響

摘要

演奏者の視点からの音場評価の研究では，音響特性の違いが演奏者の演奏心理や演奏行動に影響を与えることが報告されている。これまでに筆者らは，ピアノ奏者が初見から本番での演奏を行う時までを俯瞰したときの演奏の習熟（本研究では“曲仕上げ過程”と定義している）における練習や演奏行動に相応しい音場の響き，及び，演奏行動の習熟と音場の関わりについて検討を進めてきた4)。特に，演奏行動の習熟と音場の関わりについては，主に打鍵速度において音場や習熟の影響が認められた。しかし，演奏行動を検討する上で演奏表現を考慮することは重要であるが，音場と演奏行動の習熟に基づいた音楽表現の関係についての研究は見当たらない。よって，本研究では，音場の特性と曲仕上げ過程に基づいた演奏行動が演奏表現に与える影響を明らかにすることを目的とした。