ドイツ博物館の成立過程に見るミュージアム建築像

摘要

本稿は、近代ドイツのミュージアム建築に関する研究 の一環として、1906-25 年にミュンヘンに建設されたドイ ツ博物館（Deutsches Museum）の成立過程を考察する。現 在世界的に有名なこの施設は、1903 年の設立当時ほとh ど前例のなかった科学技術をテーマにした新しいタイプ のミュージアムであり、そのために計画された建築も、 ミュージアムの専用建築として新しい形式を求めたもの だったと考えられる。加えてミュージアム建築史を考察 する上で興味深いのは、この建築の基本計画を作成した 建築家が、19 世紀終盤に隆盛したミュージアム建築の新 形式「集積型ミュージアム」の代表例バイエリッシェ ス?ナツィオナルムゼウムを設計したガブリエル?フォ ン?ザイドルであるという点である1）。当時すでにミュー ジアム計画で実績を積hでいたザイドルが、新しいタイ プのミュージアムの設計に際して、どのようなイメージ を抱いて提案を行ったかが、この建築の成立過程を論じ る上で一つのポイントとなろう。もう一つのポイントは、 この建築が実現までに20 年近い歳月を要している点であ る。この長い実現期間において、当初のイメージがどの 程度変わったかも興味深い論点となる。