茨城県土浦と千葉県佐原の比較からみる伝統的建造物群保存地区に関する研究 その1:伝統的建造物群保存地区指定が及ぼす歴史的建造物保存への影響

摘要

一般的に、歴史的建造物は保存されるべきと考えられて いるが、地域住民や地域社会にとっては必ずしもそうでは なく、客観的かつ公正な資金等の支援の便宜を図る伝建制 度のみでは測れない地域の特性や意向があることも考慮 して、この結果を捉えるべきである。 そして、伝建指定が及ぼす建造物保存への影響をみるな らば、むしろ指定後に目を向けるべきである。佐原では、 保存対策調査時には歴史的建造物とされなかった（建築年 代が昭和か、あるいは未調査の）建造物30 棟が、現在で は特定物に加わり、佐原の町づくりに大きく寄与している。 すなわち、それまで目を向けられていなかった建造物にま で保存が広がることによる、町並み全体のさらなる魅力向 上こそが、本来の伝建制度のあり方ではないだろうか。指 定への目の向け方一つで、地域全体に還元していくことが 可能となるのである。