IAEAからの助言に対する胖価

摘要

福島原子力第一発電所の事故で汚染した環境の修復に関して国際的な知見、経験に基づいた評価と助言を受けるために我が国は国際原子力機関（IAEA)から2回(2011年10月、2013年10月）Missionを受け入れた。MissionはIAEAの専門家とIAEAが指名した外部の専門家からなっており、国内関係者(環境省、内閣府、農水省、原子力規制庁、福島県、各市町村、等）からのヒアリングと現地視察を行っている。第一回のMissionは、日本の除染計画についての助言と除染の戦略、計画やその実施に関するレビュー、第二回では除染特別地域と汚染状況重点調査地域の環境回復の進涉、前回助言を受けた除染計画、実施についての評価と更なる助言である。第一回のMissionでは主な進涉として、特措法に代表される法整備、財政基盤、除染実証試験などによる技術的な整備が行われたことが指摘された。これは事故当初は統一基準がなく各自治体やNPOなどが独自に除染を実施していたが、平成24年1月からの特措法の施行により財政的措置が取られ関係省庁が連携し環境省が主体となり統一的、効率的に修復されるようになつたこと、汚染した除去物(土壤、ガレキ、草木類等)が保管管理されるようになったことが評価された。一方、除染には仮置き場などの除去物保管場所の確保が除染を効率的にも進めるうえで重要な要因であることが明らかとなった。また、住民、社会の高い関心のもと早期の段階で食品や農産物について保守的に管理されたことが評価された。一方、平成24年4月に食品に対する新基準が政府で決定されたが、この基準は国際基準よりかなり低く設定された。一方、助言としては12項目されているが、中でも重要なものとして、線量低減を過剰に保守的に適用するのではなく 、種々の因子のバランスを考慮してJustificationとOptimizationの原則を取り入れることが第一に指摘された。IAEAなどの国際基準では追加線量1mSv/yは長期的な達成目標としているが、住民には除染で1mSv/yまで除染されるものとの龃齬も生じた。またそれにより特別に放射線防護対策を必要としない汚染土壤ゃ廃棄物も一層増えることも指摘されている。住民の立場と国の施策•国際基準との相違がみられ両者をどのようにcompromiseしていくかのいい教訓を生んだものと考えることができる。さらに被ばく線量について現実的で達成可能なレベルを設定し、それに適合する低レベルの汚染物の再利用、再生利用を行うことも提言されているが、住民の感情もありなかなか進んでいないのが現状である。今後、我が国全体の課題として国民レベルでの議論も踏まえ理解醸成を図り積極的に進めていく必要があるのではないか。またMissionは廃棄物のためのend-pointを探る必要があるとしているが、これは現在建設、稼働中の中間貯蔵施設での30年間の保管中に減容等のあらゆる方策も採用すると同時に革新的な研究開発も進め30年後に向けた姿を示していく必要があるであろう。第2回のMissionでは除染特別地域と汚染状況重点調査地域を対象にした環境回復や避難住民の帰還に向けてた制度や組織の整備と市町村等への支援についての努力が評価された。また国、県、市町村レベルの環境修復への参画やそこへの利害関係者(stakeholder)の参加についても評価されている。住民の帰還については種々の要因のため市町村によってはあまり進んでいない所があり、ここについては町の魅力ある復興計画(教育、産業、医療等)などを作り、積極的に帰還に向けた環境作りに取り組んでいく必要があるのではないか。旧汚染状況重点調査地域では営農も再開され食品の安全性についても社会からの信頼も回復されてきていることが評価された。しかし、まだ風評被害も残っておりその払拭に向けて今後とも取り組む必要がある。また森林の除染についても実質的な対応がされていること、仮置き場や中間貯蔵施設の設置に向け取り組みが進んでいることが評価されている。一方、第二回では8項目の助言がされており、線量低減については除染下の状況では年間1-20mSv/yのいかなる範囲も許容できるものであり、追加線量1mSv/yは長期目標であり除染活動だけで達成できるものではないと指摘しているが、住民にとっては一見判断に迷うような線量基準については、今後も科学的根拠(影響顕在化線量、生涯線量等)に基づいた説明をする努力が求められる。次に0.23 μSv/yが年間被ばく線量1mSvに相当するという画一的な評価でなく、実際に個人の実被ばく線量で評価する必要があると助言している。これまで個人に着用した線量計では実線量は推定線量の1/2から2/3からなつているが、その値は個人の行動形態により異なっている。今後も帰還住民に対して個人線量を測定するとともにその結果についてわかりやすく説明していく必要がある。一方、農地については環境回復手段の更なる最適化の検討を指摘しているが、これまでにカリゥムの施肥によりセシウムの穀物等への吸収が大幅に低減したこと、これまでに営赓再開した農地では既定値以上のものは生産されておらず農産物の安全は十分確保されている(一部の山菜などにはまだ基準値を超えるものがあるがこれらは流通されていない)。また、住居や農地廻りの森林除染については生態圏の破壊を防ぎつつ住民にとって最もよい方策をとることが適切であると助言しているが、住居等の周りから20mを越えての除染は生活空間の線量の大幅な低滅につながらないことが実証試験などで明らかになつており、我が国では適切に対応できていると評価できる。さらに、重要なポイントとして上げられているのは、情報の収集や住民への提供について住民の信頼を得るために一層努力すること、仮置き場の確保や管理の経験•教訓を共有する仕組の創設、環境回復と復興の全体像の提示を助言しており、それは社会の信頼を得、避難者の帰還の促進にもつながるとしている。以上、IAEAの二回にわたるMissionは福島の汚染地区の環境回復に重要な助言をしている。これらについてはこれまで関係機関、関係者等の努力により多くが達成されたことにより帰還困難区域を除く地域の避難解除ができたものである。一方、まだ帰還が進んでいない町村があること、帰還困難区域の今後の利用方策等まだ道半ばである事実もある。今後も、IAEA等国際機関などの助言も受けつつ、福島の復興を着実に進めていくことが国民引いては国際社会からの信頼も得られるものと考えられる。また、我が国で得た知見を国際社会と共有(福島レポート、各種関連専門家会合、IAEAの技術協力等)していくことも我が国の责務であると考える。