相国寺方丈の空間と観音懺法

摘要

相国寺観音懺法は大きく四種類修懺され、各々の空間は十九世紀初頭に文化四年(1807)上棟の方丈に集約・固定された。この背景には、かつて修懺された三門などの焼失や、観音懺法を好んだ後水尾上皇の崩御といった出来事があった。この空間は、建物の類型を超えて、掛軸や法器などによる再現可能な荘厳が活用された。とくに文化四年(1807)以後の方丈における観音懺法の空間は、若冲による「動植綵絵」という掛軸にくわえ、文政二年(1819)に室中の襖に描かれた補陀落山図を用いて、観音を中心とした空間として荘厳された。現在の相国寺観音懺法の空間は、人的つながりによる文化的ネットワークを背景に、障壁画など建築の柱間装置と掛軸など室礼による荘厳が、方丈の室中に定着したものと考えられるのである。