磁気力を用いた月・火星土壌のサンプリングシステム

摘要

人類が宇宙探査を進めるうえで，月・火星環境の解明は重要である．以前より月・火星の探査を行う計画があり，土壌試料の回収機構として，ドリルやスコップを用いた掘削方式が主に用いられてきた．月面上では，探査機Luna16 号（1970）がドリルを用いた掘削を行い，無人で初めて現地土壌を地球に持ち帰る一方で，火星上では，探査機Curiosityと探査機Opportunity がドリルとスコップを用いて土壌を回収し，現地で分析を行ってきた．しかし，この掘削方式は機械的な遠隔操作で実行されるため，正確な制御が必要であり，故障のリスクが高く，かつ複雑な機械的駆動部が多く存在するというデメリットがある．そこで，制御や構造がシンプルであり，より信頼性の高い回収機構として，月および火星の土壌が磁性を持つことに着目し，磁気力を用いた粒子のサンプリングシステムを開発した．実際に，磁気力による磁性粒子の飛翔現象を扱った研究例や，月面上での粒子搬送を行う研究構想も存在し，実用化に可能性があると推察している．また，今後の月面での人間の長期滞在を想定し，水や酸素といった物質を月レゴリスから生成するISRU (In Situ Resource Utilization) という構想に対しても，粒子搬送装置として本機構を応用できると考える．これらを踏まえ，本研究では実際の宇宙環境で使用することを想定し，長距離搬送を目的として，コイルを複数用いた多段式磁気サンプリング・搬送システムの開発を検討した．このシステムを用いて磁性粒子を1 m 搬送する実験を行い，さらに数値計算による粒子の挙動解析を行うことで，装置の性能を評価した．