携帯型簡易蛍光Ⅹ線分析装置の製作および文化財調査への応用

摘要

Ⅹ線を利用した非破壊分析方法は，考古資料や美術資料等を扱う文化財の科学調査においても有効な分析手段の一つとして広く応用されている。利用方法としては，Ⅹ線透過撮影やⅩ線CTに代表されるような透過撮影を目的としたものと，蛍光Ⅹ線を利用した元素分析を目的としたものに分けられる。 ここては，最近市販されている小型の半導体検出器を利用した簡便な蛍光Ⅹ線分析法について紹介する。 文化財科学の分野においては，蛍光Ⅹ線分析法により得られる情報は，文化財が作られた時代や技法，材質といった歴史背景を考察する際の手かかりとして，また科学的裏付けとして利用されている。 また，文化財の真贋を判断すも場合の科学的証拠としても蛍光Ⅹ線分析法政用いられる。 文化財科学においては，このような文化財を直接科学的に調べること以外にも，最近行われた平城京の朱雀門の復元のように，当時の状態を復元する作業も要求される。 この場合，建造物等の当時の色調を正しく復元するために，表面の塗装等に用いられた顔料等を再現する必要かあり，このような場合も，蛍光Ⅹ線分析により得られた組成から顔料を推測することザ有効である。さらに現存する文化財を保存，修復する場合にも，文化財本体に損傷を与えずに修復するためには資料の材質を明らかにすることがまず要求される。 このような分野は保存科学と呼ばれ，この面からも蛍光Ⅹ線分析で得られる情報は重要視されている。