量子場理論における変分法: カイラル相転移の動的過程へのアプローチ

摘要

2004年度原子核三者若手夏の学校の原子核パートにおける講義では、カイラル相転移の動的過程の理論的考察をお話しするために、まず、強い相互作用を支配する量子色力学（QCD）のいくつかの性質、およびカイラル対称性とQCDの有効模型によるカイラル相転移の扱いを概観し、その後、線型シグマ模型に基づきカイラル相転移のダイナミクスを考えた。 そのために、量子力学的多体問題、特に原子核の動力学を記述するために広く用いられてきている時間依存変分法の考えをスカラー場の量子論に拡張した汎関数シュレーディンガー描像に基づく量子場系の扱いと、これと同等なスクイーズ状態を用いた時間依存変分法について解説した。 これは量子効果を含んで平均場の時間発展を記述できる方法であり、この方法を用いてカイラル相転移の動的過程について、特にDCC（Disoriented Chiral Condensate）との関連で述べた。 本稿では、紙数の関係上、講義のすべてを再録することはできないので、QCDの特徴的ないくつかの性質を次節でまとめ、QCDの有効模型としてはQCD-like理論と線型シグマ模型のみを取り上げる。 3節では汎関数シュレーディンガー描像に基づく時間依存変分法を用いた量子力学系の記述法を与え、これをスカラー場の量子論に拡張する。 さらに線型シグマ模型に量子場系の時間依存変分法を適用し、カイラル相転移のダイナミクス、特にDCC生成の可能性について言及する。